あなたの論文がジャーナルでの出版を認められたとき、研究者の誰もがそう思うように、その論文が学術コミュニティにできる限り広く知られ、大きな影響力を持ってほしいと考えるでしょう。これまでは、これには印刷出版を必要としました。今日では、オンラインアーカイブのような他の選択肢もありますが、これから向き合う出版契約書は、そのような著作物の広範な流通を妨げるものです。
あなたは、自身の研究からメリットを得られる読者を故意に遠ざけることはしていませんが、そのまま制約のある出版契約書に署名することは、研究成果の広がりを限定し、一人の著者としての研究インパクトを弱めてしまいます。
なぜでしょう? 従来からの一般的な出版契約では、著作権を含むあらゆる権利がジャーナル・サイドに引き渡されてしまいます。あなたは、今後の研究に今回の論文の一部を含めることや、コピーを授業で配ったり、同僚に配布したいと考えているでしょう。ウェブページやオンライン・リポジトリに置きたいとも考えるでしょう。これらはすべて研究を広く人目にさらし、学者としての目標を実現させる方法ですが、これまでの契約ではどれも禁止されています。出版者の契約書の署名欄にサインをしても、これらの重要な権利を保持する方法はないのでしょうか?
あります。「SPARC著者添付文書」(英語/日本語)は出版者の契約を一部変更して、論文に関する主要な権利をあなたが保持することを認めさせる一つの法的手段です。「著者添付文書」は、クリエイティブ・コモンズ (Creative Commons) <http://www.creativecommons.org> とサイエンス・コモンズ (Science Commons) <http://science.creativecommons.org>(この2つは、多様な創造的試行に向けて、多岐にわたる著作権オプションを提供するために設立された非営利の組織です。)とSPARCの協力によって開発された無償のリソースです。
「ノースカロライナ大学チャペルヒル校 (The University of North Carolina at Chapel Hill) は、すべての研究者と学者が共有する重要かつ緊急なニーズを満足させてくれるものとして「SPARC著者添付文書」を使用することを奨励しています。「SPARC著者添付文書」は、研究者と著者に対して、出版者との関係で自身を擁護する機会を与えるとともに、学術コミュニケーションシステムを変革する可能性をも含んでいます。」
Sarah Michalak, University
Librarian and Associate Provost for University
Libraries University of North Carolina at Chapel
Hill |
著者としてあなたの権利を知ってください。
- 著者が著作権者です。
著作物の著者として契約書に署名し、著作権を他の誰かに譲渡していないならば、あなたが著作権者です。
- 権利の譲渡は重要な問題です。
著作権者は原著作物の複製、配布、公演、展示及び翻案の排他的権利を所有しています。しかし、これらの権利を留保しないで著作権を譲渡した場合は、著作権法において定められた免除項目に該当しないならば、著者でさえ使用の際に許可を求めなければなりません。
- 著作権者が、著作物の管理者です。
配布、アクセス、価格設定、更新、利用制限等の著作物の利用に関する決定は著作権者に帰属します。権利を留保することなしに著作権を譲渡した場合は、コースウェブサイトに著作物を置くこと、学生や同僚にコピーを配布すること、公的なオンラインアーカイブに著作物を寄託することや今後の研究で一部分を再利用することもできなくなることがあります。だからこそ、あなたが必要とする権利を留保することが重要になります。
- すべての著作権を譲渡する必要はありません。
法律は、あなた自身や他者に権利を保持しながら、著作権を譲渡することを認めています。「SPARC著者添付文書」は、このような妥協点に達する手助けをします。
出版契約書を細かく検討してください。
- 出版契約書を細心の注意を払って読んでください。
出版者の契約書(多くは「著作権譲渡契約書」という名称です)は、著者から出版者へ著作権または使用に関する主要な権利を譲渡するために用いられてきました。 出版者が契約書を作成し、著作物を出版するのに必要とされる以上の権利を獲得することもあります。バランスのとれた、権利が明確に表現された契約であることを確実にするのは、あなたの確認次第です。
- 出版契約には交渉の余地があります。
出版者は完全な著作権の譲渡ではなく、論文を出版するための許可だけを必要とするはずです。個人的に、あるいは教育・研究活動を促進するために、著作物を利用する権利を保持してください。
- あなたの知的財産における著作権の価値を認識してください。
ジャーナル論文は、しばしば何年もの学習、研究、厳しい仕事の集大成です。
論文が読まれるほど、そして引用されるほど、その価値はより大きくなります。しかし、出版契約書において権利を譲渡してしまうことで、あなたがその利用を制限することになります。自分自身の知的成果物の所有権を譲渡する前に、その影響とオプションを理解してください。
著作権管理へのバランスのとれたアプローチ:
著 者
- あなたにとって必要な権利を留保してください。
- 自分自身の著作物を制限なしで使用、発展させてください。
- 教育と研究のためのアクセスを増加させてください。
- 著作物が使用されたときには、適切な著者(帰属)表示を受けとってください。
- 選べる場合には、いつでも、誰にでもアクセス可能なオンラインアーカイブに著作物を寄託してください。
出版者
- 著作物を出版し配布する非排他的な権利を獲得し、財政的な収益を得てください。
- 初出のジャーナルとしての適切な出版(帰属)表示と引用表示を受けとってください。
- 著作物のデータ・フォーマットを将来的にも利用可能なものへ変更し、コレクションに含めてください。
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出版者が著者添付文書を拒絶した場合、どうすればいいですか?
- あなたにとって、著作物に対するこれらの権利を留保することがなぜ重要であるかを出版者に説明します。
- 出版者に対して、「SPARC著者添付文書」の下で提供されたライセンスが出版するには不十分である理由について、明確に説明するよう求めます。
- 著作物の主要な権利を留保する重要性の増加という観点から、出版者の回答の妥当性を評価してください。
- 著作物を可能な限り幅広く発信し、学者としての個人的、専門家的目標を達成することを助ける組織と出版することを検討してください。
「SPARC著者添付文書」は、研究者が米国国立衛生研究所(NIH)の公開アクセス方針 (Public Access Policy)に従うことを容易にするだけではありません。サイエンス・コモンズは、最新のウェブ技術を最大限に駆使して、「Resource Description Framework(RDF)」 (ワールド・ワイド・ウェブを我々にもたらした同一の発明者による開発) と呼ばれる言語で、「SPARC著者添付文書」の機械可読バージョンを開発しています。このバージョンを利用すれば、ウェブページを数回クリックするだけで、自由に著作物の権利を保持する道が開けるでしょう。 |
「SPARC著者添付文書」の使い方
1. 添付文書(参考:日本語訳)を完成してください。
2. 添付文書のコピーを印刷して、 それを出版契約書に添付してください。
3. カバー・レターで、契約書に添付文書を含めたことを出版者に連絡してください。
4. 出版契約書と出版者へのカバー・レターと一緒に、添付文書を出版者へ郵送してください。
論文をNIHのPubMed Centralに寄託したい場合:
論文をNIHのPubMed Centralに寄託する権利を保証するだけであれば、NIHは出版者の出版契約書に以下の表現を挿入するように助言しています。
"Journal acknowledges that Author retains the right to provide a copy of the final manuscript to NIH, upon acceptance for Journal publication or thereafter, for public archiving in PubMed Central as soon as possible after publication by Journal."
(参考訳)「本ジャーナルは、出版後のできるだけ早いPubMed Centralでのアーカイブのために、出版の承認以降に著者が最終原稿のコピーをNIHへ提供する権利を有することを認める。」
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知的財産に対して責任ある管理者になってください。研究成果をより広く利用できるようにするために、様々な出版活動を認めながら、あなたと読者にとって、きわめて重要な権利の留保をお願いします。
SPARCは次の方々に深く感謝します:
Michael W. Carroll、ヴィラノヴァ (Villanova)大学法科大学院。「SPARC著者添付文書」を開発しました。
Karla Hahn、米国研究図書館協会 (Association of Research Libraries)、Peggy Hoon、ノースカロライナ州立大学 (North Carolina State University) 図書館。この小冊子のテキストに貢献しました。
Rick Johnson、SPARCシニアAdvisor。前のSPARC事務局長としてこのプロジェクトを開始しました。
John Wilbanks、サイエンス・コモンズ。「SPARC 著者添付文書」の機械可読バージョンの開発のために調整しました。
2006年 夏
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