国立大学図書館機能の強化と革新に向けて~国立大学図書館協会ビジョン2020~
平成28年6月17日
国立大学図書館協会
第63回総会
21世紀になってネットワーク型のコミュニケーション様式が急速に普及し,知のあり方が大きく変わりつつある。知は相互的なコミュニケーションによって創出されるようになり,それにともなって大学図書館が果たすべき役割も,従来の大学における知の共有と創出への貢献がよりいっそう重要になるとともに,新たなものが求められている。このような状況を踏まえ,国立大学図書館協会は,国立大学図書館機能の強化と革新に向けて,大学図書館の基本理念を次のように定める。
大学図書館の基本理念
大学図書館は,今日の社会における知識基盤として,記録媒体の如何を問わず,知識,情報,データへの障壁なきアクセスを可能にし,それらを活用し,新たな知識,情報,データの生産を促す環境を提供することによって,大学における教育研究の進展とともに社会における知の共有や創出の実現に貢献する。
この基本理念を実現するために,国立大学図書館協会は,次のように3つの重点領域とそれぞれにおける戦略的な目標を設定する。国立大学図書館協会及び会員館は,自らの役割と活動のあり方をつねに見直しながら,各重点領域における目標の達成に向けた取り組みを進める。さらに,2020年を一つの節目としてそれまでの達成度を確認し,必要に応じてビジョンに対して検討を加えていく。
重点領域1. 知の共有:<蔵書>を超えた知識や情報の共有
大学図書館は,知の共有という観点から,大学における教育・研究に必要な知識,情報,データを網羅的に提供する必要がある。紙の図書や雑誌等によって構築された従来の蔵書に加え,電子ジャーナルや電子ブック等の電子的リソース,機関リポジトリに収載される研究論文,学習教材やデータといった教育研究成果,さらにはインターネット上にあって誰もが自由にアクセスできる有用なコンテンツをも含む全体を対象として知の共有のための方策を検討し,実現する。
- 目標1)教育研究成果の発信,オープン化と保存
- 国立大学図書館は,大学で生み出される教育研究成果の電子的流通とオープン化を推進するとともに,それらの長期的な保存をはかる。
- 目標2)出版された資料の整備と利用
- 国立大学図書館は,紙の図書や雑誌等の蔵書,契約によってアクセス可能となる電子ジャーナルや電子ブック等の電子的リソース等を適切に整備するようにつとめ,利用環境をととのえるとともに,長期的な利用を可能とする。
- 目標3)知識や情報の発見可能性の向上
- 国立大学図書館は,総合目録データベースをはじめとする学術情報システム基盤を高度化することにより,知の総体を対象として,必要な情報がより効率的・網羅的に発見できる環境を実現する。
重点領域2.知の創出:新たな知を紡ぐ<場>の提供
大学図書館は,これまで人と知識や情報,あるいは人同士の相互作用を生み出すコミュニケーションの場であり,知を創出する空間であった。これからは,旧来の「館」の壁を超えてその場を拡張し,さらには物理的な場だけでなく,知のネットワーク上に存在する仮想空間を新たな知を創出するための場として活用することにより,教育・学習の質を向上させ,研究活動を支援するとともに,大学と社会との連携を促す。
- 目標1)知を創出する場の拡大・整備・提供
- 国立大学図書館は,人と知識や情報,あるいは人同士の相互作用を生み出すコミュニケーションの場を提供し,そのような場を拡張することで,教育・学習や研究を通じた知の創出を促す。
- 目標2)社会に開かれた知の創出・共有空間の提供
- 国立大学図書館は,学術コミュニティに限らずさまざまな人びとが知を媒介として集い,さらに新たな知の創出と共有を実現する場を提供する。
重点領域3.新しい人材:知の共有・創出のための<人材>の構築
大学図書館は,さまざまな能力やスキルを有する人材が混在するハイブリッド(複合的)な人材の集合体を形成することで,大学図書館に期待される新たな役割を果たすとともに,多様な知の共有と創出を促す。そのために,新たな人材の構築が実現できるような制度を整備する。
- 目標1)新たな人材の参画
- 国立大学図書館は,教員,職員,研究者,学生等を含むさまざまな能力やスキルを有する人びとと図書館職員とが一体となり,蔵書の評価や選別にかかる「キュレーション」や人と知識や情報,あるいは人同士の相互作用を促す「ファシリテーション」等の機能を提供することにより,多様な知の共有と創出を実現する。
- 目標2)国立大学図書館職員の資質向上
- 国立大学図書館職員は,これまで培ってきた学術資料に関する専門的知識やメタデータ運用スキルに加え,新たな知識やスキルを習得することにより,学術情報流通環境の変化の中で国立大学図書館に期待される新たな機能を実現する。
国立大学図書館協会及び会員館の果たすべき役割
- 国立大学図書館協会は,これらの戦略的目標の実現のために,国公私立大学図書館協力委員会や大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)等,設置母体の違いを超えた大学図書館間の連携の枠組みを活用するとともに,国立大学協会と協力し,国の支援等も得ながら,海外との連携も含め具体的な活動を立案し実行するための実施体制を整備する。
- 会員館は,協会の活動と連動し,学内の関係部署や他の国立大学図書館をはじめとする国内外の図書館の協力を得ながら,それぞれの大学のミッションや中期目標等に沿うように戦略的目標を選択してその達成をはかり,上記大学図書館の基本理念の実現をめざす。
ビジョン策定の経緯
学術コミュニケーションの変容や大学図書館に期待される役割の変化に対応するため、国立大学図書館協会は平成27(2015)年11月、総務委員会の下にビジョン策定小委員会を設置し、ビジョンの策定に着手しました。ここで作成された原案に対して各地区協会、理事会で協議や検討を加えたのち、平成28(2016)年6月に開催した第63回国立大学図書館協会総会で「国立大学図書館機能の強化と革新に向けて ~国立大学図書館協会ビジョン2020~」として採択しました。
ビジョン2020評価・総括および会員館の取り組み事例
ビジョン2020の「一つの節目」である2020年を迎え、国立大学図書館協会ではビジョン2020の達成度を確認するべく、各委員会においてこれまでの活動の評価・総括を行いました。また、各会員館の取り組みのうち、大学図書館機能の強化と革新に向けた優れた取り組みを募集したところ、多くの事例が寄せられました。一方、関東甲信越地区と近畿地区では毎年、独自にビジョン2020をもとにした活動報告を行っています。この資料はそれらをとりまとめたものです。
- 国立大学図書館協会ビジョン2020 評価・総括および会員館の取り組み事例 令和3(2021)年6月
注:関東甲信越地区の活動報告の全文、および近畿地区の活動報告の一部は非公開です。会員館は会員館専用ページにログインしてご覧ください。
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