名古屋大学「ライブラリ・メイカースペース」

名古屋大学中央図書館の萩誠一課長に、ICT機器を活用した自由な工房「ライブラリ・メイカースペース」の取組についてお話を伺いました。

萩誠一課長

萩誠一課長

ライブラリ・メイカースペースについて

 ライブラリ・メイカースペースは、利用者(メイカー)が近年利用しやすくなったPC制御の工作機器を活用して「ほぼあらゆるものをつくる」ことができる工房であり、モノづくりに必要な知識を利用者同士で情報共有できるスペースのことです。

【参考】萩誠一「ライブラリ・メイカースペースの開設」『愛知図書館協会会報』No.199, p.7

Q:ライブラリ・メイカースペース始動のきっかけはどのようなものだったのですか? また、ライブラリ・メイカースペースが実際にできあがるまでには、どのような道筋で進めていったのでしょうか。

 文部科学省の国立大学経営改革促進事業に東海国立大学機構による「マルチ・キャンパスシステムなど新たな国立大学モデルの構築」として応募する際に、図書館が参画することになったのがきっかけです。(東海国立大学機構は、2020年4月、岐阜大学と名古屋大学という二つの国立大学法人による県をまたいだ法人統合により、わが国初の一法人複数大学制度による国立大学法人として設立されました。)この検討の際に、慶應義塾大学や千葉大学で導入されているファブラボが今後図書館に必要となる機能ではないかという議論があり、要件として含まれることになりました。ライブラリ・メイカースペースは、学びの場の延長線上という意味合いも込めて、図書館の2階にあるラーニングコモンズのスペースの一角に設置しています。

Q:現在のライブラリ・メイカースペースにおける図書館員の役割はどのようなものですか?

 現在、ライブラリ・メイカースペースに関わっているのは、私と係長クラスが1名、学生スタッフが7名で、勤怠管理は調査学習支援グループに協力をお願いする、といった体制になっています。大学図書館の職員の多くが文系出身で、情報系よりのプロジェクトに距離感を感じる方もいます。運用面を考えると、他の職員を育成して引き継いでもらうか、技術系職員を雇用することができればよいと考えていますが、育成も職員1増いずれも簡単には実現できない状況です。近年では図書館でも研究データ管理に関わることが求められるようになっており、大学図書館職員にも情報系の素養はますます必要になると思います。ちなみに、学生スタッフは文理問わず募集をかけており、情報学・理学・工学・環境学の学部学生や大学院生が協力をしてくれていますが、中にはライブラリ・メイカースペースの利用者から学生スタッフになった方もいたりします。

Q:ライブラリ・メイカースペース設置の以前と以後で、学生さんには変化がありましたか?

 お互いに学びながらものづくりをしていきましょう、というのがライブラリ・メイカースペースのスタンスです。ラーニングコモンズの延長で、スタッフ・利用者の学生さんでディスカッションや情報交換をする場となっており、必ずしも利用者・スタッフという区分けではなく、相互に教え合うような関係になってきています。

  スペースの利用状況ですが、昨年度は年間約700件で、1日2~3件となっています。人気なのは、3Dプリンタとレーザー加工機です。利用者は、利用に制約を設けていないためサークル活動での利用が多いですが、大学院生が研究目的で利用することもあります。興味深い利用としては、考古学分野の院生が発掘資料を3Dプリンタで出力して出土品の手触りを確かめたいと相談に来たり、理系の学生が朝顔の研究で3Dデータを取るために3Dスキャナーを利用したりといった事例がありました。

ライブラリ・メイカースペース

ライブラリ・メイカースペースの機器類:レーザ加工機・画像処理用のPC・3Dプリンタ等

Q:ライブラリ・メイカースペース設置の以前と以後で、図書館の職員には変化がありましたか? 特に、職員ご自身の意識や考え方について実感しているところはありますか。

 職員からは、3Dプリンタを使ってイベント時の配布物を作成してもらえないか依頼されることがあり、これらにも対応しています。また、逆に学生スタッフの中から、レポート執筆や分野別の研究や課題に関する悩みなどに対応するサポートスタッフも併任してもらっています。サポートスタッフは理系の学生が少ない傾向にあるので、メイカースペースの学生スタッフが協力することで、バランスがとれるようになっています。

Q:ライブラリ・メイカースペースの運用に関わる予算の確保は、どのようにされているのでしょうか。

 この点は二つ目の難点です。現在は、消耗品は企業からの寄付や同窓会からの補助金で賄うことができていますが、これらの予算で人件費を支出することは難しいです。運用1年目は、コロナ禍の学生生活を維持することを目的に、大学で学生を雇用するための予算措置があり、これを活用していましたが現在は図書館の予算で対応しています。また、昨今の物価高騰の影響も避けることができず、機材の修繕費なども必要となるため、将来は材料や利用の有料化を検討することも視野に入れています。

Q:ライブラリ・メイカースペースの利用に安全教育の受講が記載されているのですが、これは具体的にどのようなものなのでしょうか。また、構築や運用で安全に配慮している点はどのようなものがありますか。

 大学が提供しているコンテンツで、科学実験などを行わない学生も、在学中に1回は受講しなければいけない安全教育コースがあり、これを必ず毎年受講することを求めています。内容は、実験器具を扱うにあたっての安全教育に関するもので、例えば火事はどのように避ければよいか、事故を避けるにはどうすればいいかといった事柄を学ぶものです。大学の安全管理室が責任をもって毎年研修のコンテンツを更新しているものを利用させてもらっています。

 運用に関しては消防署からも指摘されていますが、例えば3Dプリンタは印刷に非常に時間がかかるのですが、一昼夜無人で放置するのは危険なため、有人で印刷するよう運用しています。また、レーザー加工機はガスが発生するものは処理できないので、塩化ビニールなどの素材を切りたいといった利用は事前にチェックしてお断りしています。スタッフとして安全管理という点で心配りは重要です。

Q:ライブラリ・メイカースペースの特色を活かした図書館サービスや図書館の運営として、今後、どのようなことをしていきたいと考えていますか?

 現在、東海国立大学機構では図書館前に施設を整備する構想が進んでおり、その中で学生が集える場所、学生が発表し学べる場所の構築を検討しています。その中で、図書館のライブラリ・メイカースペースをこの施設に移設して、自由工房という形で、学生だけでなく、地域の方々にも幅広く利用してもらうことができないか、ということを考えています。まだ検討中のため、実際にライブラリ・メイカースペースを移設するとして、施設の中での役割、運用方法、予算など、調整はこれからです。人員配置という点では、様々な利用者に安心・安全にスペースを利用してもらうために、技術系職員・補佐員の配置が必要となります。

Q:最後にこれからの大学図書館で、さまざまな新しいプロジェクトに取り組む職員に向けて、お言葉をいただけますでしょうか。

 図書館が大学の真ん中に位置するには、図書館自身が変わっていかなければいけない、職員が変わっていかなければいけないと思っています。もちろん、大学などの周りが求めるものをそのまますぐやりますって言うのも大変ですが、旧来型の業務を維持するだけでも不十分です。何か変わりつつ昔も維持しつつといった形でバランスを取りながらも、やはり大学図書館として何かしら変化していくことが必要かと思っています。

 

ライブラリ・メイカースペースに関する担当窓口および連絡先:
fablab@nul.nagoya-u.ac.jp
(@を半角にして送信してください)


「ビジョン2025重点領域2企画」担当者チーム 
電気通信大学学術情報課 上野 友稔(取材・文責)

取材日:2023年1月11日(水)