岡山大学「リアルとバーチャルで多様な人材が交流する<場>『知好楽セミナー』」
岡山大学附属図書館で開催している「知好楽セミナー」 について岡山大学学術情報サービス課長の竹下 啓行さんにお伺いしました。
Q:「知好楽セミナー」について教えてください。
「知好楽セミナー」は「グローバル化時代を生き抜くための「知」と「心」を育む交流」をコンセプトに運営しています。セミナーでは学術的なものに限らず趣味・生活も含め幅広いテーマを対象に講義形式やワークショップなど様々な形式で開催しています。
また、このセミナーの主なターゲットは学生ですが、学生に限らず、教職員、地域の皆様も参加することができます。学生、教職員、地域の皆様が図書館というリアルな場で交流をし、学生の主体的な学びにつなげていくのがこのセミナーのねらいです。
当館では貴重資料の池田家文庫をとりあげた市民向け公開講座も開催しておりますので、「知好楽セミナー」は学生をメインターゲットとして公開講座と区別をしているところもあります。
「知好楽」という言葉は論語の「子曰く、これを知る者はこれを好むものに如かず。これを好むものはこれを楽しむ者に如かず。」という言葉からとったものですが、知識として得るだけではなくいろいろな事を楽しむ場としていく、というのがこのセミナーのコンセプトです。参加者、とりあげるテーマも幅広いというのが特徴になっています。
Q:「知好楽セミナー」は2014年から始まっているようですが、このセミナーを始めたきっかけについて教えてください。
岡山大学附属図書館では2014年から2015年にかけて耐震改修が行われました。その当時は学生の「能動的な学修」がさかんに言われた時期で、ラーニングコモンズやグループ学修スペースが整備されました。
その改修工事にあたっては館長、副館長、教員、学生、図書館職員、生協職員などからなる中央図書館利用者サービス実施検討ワーキンググループが組織され、図書館のあり方について提言をまとめました。
提言の中では「図書館という知が集積する場に人が集まって交流する」「図書館を含めたその周辺を知好楽ゾーンと名付け、人が回遊して知的な刺激を得る出会いの場とする」という構想がありました。図書館を異世代交流、異分野交流の場とするという構想です。
これらの構想や「知好楽セミナー」の開始については、当時の館長のリーダーシップに負うところが大きかったと思います。
Q:セミナーのプログラムを見ますと地域おこし協力隊、美容師、コーヒーショップのオーナーなど実に多彩な顔触れが並んでいますが、プログラムはどのように決めているのですか。
このセミナーが始まった当初は館長や副館長のお知り合いの方に講師をお願いする事も多かったのですが、図書館職員の発案でプログラムを決めることもありました。
セミナーのテーマを先に決めてから図書館職員が学内からテーマに適した講師を探していくこともありました。
また、図書館職員が市内のコーヒーショップに出向いてつながりを作り、講師を直接お願いするようなこともありました。
Q:新型コロナが蔓延した影響だと思いますが2020年頃からオンラインで開催していますね。
新型コロナウィルスの影響を受けたのは2020年からですが、観客を入れないでオンラインだけで開催したのが1度、それからはハイブリッド形式で開催しています。
オンライン開催の場合、遠方からも参加できるというメリットもありますので今後新型コロナウィルスが終息した後も引き続きオンラインの部分は残していこうかと考えています。
Q:これまで開催したセミナーについて教えてください
2014年にはアカデミックライティングの重要性がさかんに言われていましたが当時の岡山大学ではライティングの授業がありませんでした。「知好楽セミナー」では学外から講師を招いて英語論文セミナーやプレゼンテーションのセミナーを開催しました。英語論文セミナーなどは学内の若手研究者が多数参加し、ライティング講座を待ち望んでいた学生や研究者が数多くいることを実感することができ、時機を得たセミナーだったと思います。
その後、この「知好楽セミナー」でのライティング講座がきっかけとなって、図書館職員でライティングの教科書づくりをしたり、図書館内にアカデミックライティングの相談窓口を設けたりというような動きにつながっていきました。大学でのライティングの授業開始にともなって図書館の相談窓口は廃止していますが、このライティングセミナーがその後の動きに一定の影響を与えている部分はあるかもしれません。
また、岡山大学の卒業生でミステリー作家の今村昌弘さんのセミナーも参加者が多く、大変好評でした。
2016年には岡山市内でコーヒーショップを経営されている方が講師となり、淹れ方による味の違いなどを味わってもらいながらコーヒーの世界について語っていただき、40名近い参加者から大変好評でした。
Q:今後の課題について教えてください。
企画立案の部分は人脈に依存する部分が大きいため、業務としてどのように継続していくか悩ましいところです。
またセミナーを開催する中で参加する方の熱気のようなものを感じることがあります。淡々とすすめていく講義形式では感じることができないような熱気です。そういった熱気や、密な交流、交流のよさといったものを、オンライン形式を取り入れつつどう残していくのかが課題だと思っています。
「ビジョン2025重点領域2企画」担当者チーム
茨城大学図書館 松土真由美(取材・文責)
取材日:2022年11月17日(木)