|
- 「学術コミュニケーション危機」とは?
簡単に言えば
以下のような内容です。
- 皆さん、皆さんの同僚、そして皆さんの学生にとって、専門書の入手は
次第に困難になっています。
- ほとんどの学者・教員にとって学術コミュニケーションのホームグラウンド
である図書館は、価格高騰に資金が追いつけないために受入資料を絞らざるを得ない
状況にあります。
- このような危機は、学者・教員の著作物を学界に広く知らしめること
よりも利益を重視する商業出版者が科学・技術・医学分野の専門書を取り扱うように
なったために深刻化してきました。
- 1980年代の半ばと比べると世界の学術書の出版タイトル数は2倍に
なっていますが、平均的な研究図書館の購読する学術誌は6%減っており、単行書は
26%減少していて、その他の刊行物の新規購読もやはり減少しています。
- つまり、これまで何十年も学者・教員の支えになってきたシステムが
崩壊しようとしているのです。
- 2. 同僚とのコミュニケーションはうまくいっていると
思うのだけど・・・どこに危機があるのですか?
この学術コミュニケーション
危機には、学者・教員の気づかぬうちに進行してきたというやっかいな側面があります。
図書館が十分な図書を所蔵する大学等に所属する学者・教員は恵まれています。
そのような学者・教員は少ないからです。自分の専門分野、自分の所属す大学等だけで
なく周りにも目を向けてみてください。自分には必要なものがすべてそろっている。
それでは他の大学等はどうですか? 他の分野、他の国の研究者はどうでしょうか?
将来の学者・教員、つまり、大学院生はどうでしょう? 学術書の入手に不自由して
いませんか?
- 電子出版は学術出版の在り方を変えるのでしょうか?
学術コミュニケーションが安く素早く手に入る新時代は来るのですか?
電子
出版物はやがて安くなるかもしれませんが、まだ今のところはそうなっていません。
事実、割高な価格を図書館に提示する出版社も多いのです。たとえば、学術誌の
電子版は印刷版にセット売りされる場合が多いので、図書館は電子版のユーザに与える利便性を
無視できずに欲しくもない印刷版まで押し付けられる羽目になっています。
また、電子ジャーナルには長期にわたる深刻な問題があります。なかでもよく
指摘される問題はアーカイブと保存です。印刷版の学術誌や学術書であれば、
紙の寿命が尽きるまで保管することができます。概して電子版は、買うのではなく、
借りて購読します。したがって、ハードウェアやソフトウェアが急速に変化するなかで
電子ジャーナルをどのように保存するかなど考える利用者はいません。さらに、
電子出版物を嫌う学者・教員、印刷版に代わる存在とは考えない学者・教員もいます。
それでもなお、学術研究の電子出版には、特に市場競争原理によりコストが下がるという
大きな可能性があります。
- どのような危機対策があるのですか?
1960年代に政府が
高等教育に力を入れ始めたため、学術情報はこの40年間に急増しました。
商業出版者は1970年代に学術コミュニケーションの営利性に気づき始め、
概して学会はその刊行物を民間企業に進んで委ねました。1980年代中ごろ、
出版社の吸収・買収・合併が続いたため、学術コミュニケーションのコストが上がり続け、
図書館は学術誌全般のキャンセルと削減を余儀なくされました。
- 危機はどの程度、どこまで広がっているのでしょう?
以前は
危機が科学・技術・医学誌に集中していましたが、学術誌により大きく依存する社会科学の
分野にまで二桁台の値上がりが押し寄せています。概して図書館は学術誌購読の予算を
増やさなければならなくなったため、他の図書、特に学術書や外書の購入予算が
削減されました。学術コミュニケーションの今後を予想することは不可能ですが、
単純に推計すると図書館の学術誌は2012年までに20〜50%削減されることになります。
- 今のシステムを変えるとして、どのような選択肢があるのですか?
以下のように多くの代替案が議論されており、一部には実施されているものもあります。
- 商業誌に競争を引き起こす。SPARCはそのためにあります。現在発行されているSPARC提携誌のリストを
掲載しましたのでご覧ください。
- 学者・教員が商業出版以外のルートから情報を発信する機会を増やす。
カンザス大学(プラン参照)と
ロチェスター大学(プラン参照)の
副学長がこのような計画を提案しています。
- 学会の自主出版プログラムをサポートする。
- 知的所有権を譲渡している現行のシステムに代わるものを用意する。
たとえば、教室内、キャンパス内に限り出版物の無料使用を許す、あるいは、
図書館の蔵書にない出版物に限り同僚との情報共有を許すなどの案があります。
- 私は一個人に過ぎません。そのような立場の人間にとって
学術コミュニケーション・システムは巨大で手におえないように思えます。
システムを変えるとしても、一個人に何ができるのでしょうか?
以下の方法でご協力ください。
- 出版者と交渉するときは、自分の著作物に関する権利をできるだけ多く
保持するようにしてください。自分の著作物を自分で使用する際に不自由が生じないように、
契約内容を調整してください。 詳細はこちら。
- 価格設定の妥当な学術誌に論文を投稿してください。できれば、
SPARC提携誌に投稿するようにしてください。SPARC Web
サイトをご覧ください。
- 著者・査読者・編集者として投稿する商業誌の価格設定、著作権、
およびライセンス契約を確認してください。できれば、法外な価格を設定する出版者
とは付き合わないようにしてください。
- システムを変えるために学術コミュニケーションがどうあるべきかについて、
学部・学校・キャンパスの仲間と問題点と提案について話し合うようにしてください。
- 昇進審査の課題に電子出版物を付け加えてください。
- キャンパスの知的所有権方針について話し合う会議には出席するように
してください。研究成果が広く、そして正しく伝わるような方針が策定されるように
支持してください。
- 高価な割には利用されない図書を図書館がキャンセルするように
支持してください。仲間にもそれを呼び掛けてください。
- 学部の学術コミュニケーションに関する会議に図書館員を参加させてください。
出版社から招かれたときは、図書館員を随伴してください。
- 図書館にSPARC加盟を勧めてください。
- 消費者としてより多くの知識を身に付けてください。コーネル大学(詳細)や
ウィスコンシン大学(詳細)が
実施するような学術誌の費用効果分析に精通してください。
- 学会の一員として、学会の電子出版プログラムを促進し、
商業出版者に著作を売り渡さなくても済む手段を探し出すように促し、
学会の出版物について妥当な価格設定を呼び掛け、高価な商業出版物については
それに対抗する競合出版物を発刊するように勧めてください。
- あなたが学術誌の編集者であれば、非営利出版者への乗換えを
検討してください。
- システムが抜本的に変わる見込みはどの程度あるのでしょうか?
学者・教員である皆さんあってのシステムです。皆さんの著作無くしては、
学術コミュニケーション・システムは成り立ちません。皆さんには、潜在的に巨大な
影響力があるのです。前向きな戦略を促進すること、賛同できない方針や行ないには、
断固として反対することで影響力を行使することができるのです。
|