袋小路に追い込まれた学者・教員 | ||||||||||
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学術コミュニケーション危機 社会福祉の重要基盤のひとつである学術コミュニケーション・システムは 袋小路に追い込まれています。情報・知見の自由な流れは、甚だしく脅かされています。 この危機は静かに進行しています。この数十年間で徐々に悪化してきました。 しかし、進展が非常に緩やかであるため、多くの教職員はその深刻さにまだ気づいていません。 実に20世紀の大半を通じ十分に機能してきたこのシステムは、崩壊しよう としているのです。早く対処しないと、学術コミュニケーションにおけるこの危機は研究と学問に 壊滅的な打撃を与えてしまいます。 多くの重要指標がこの危機の深刻さを示しています。
簡単に言えば、これまで長年にわたり学界に役立ってきたシステムは、 もはや機能していないのです。 図書館は変化に追いつけないでいます。学者・教員とその学生は それぞれの専門分野の最新情報を図書館で得てきましたが、この15年間に多くの図書館が 教員と学生の要望に応えられなくなってきました。 平均的な研究図書館では、学術誌の購読タイトル数がこの14年間に 6%以上減少しており、学術書のそれは26%減少しました。小規模な大学やカレッジも 同様の削減を余儀なくされています。 この削減については、別の側面もあります。ARLに加盟する図書館の 相互貸借による借り受け件数は1989〜1999年の期間に122.2%の急上昇(年率8.3%)しました。 原因として利用者数の増加が挙げられましたが、これは取るに足りない要因でした。 利用者数が増加したのは、学者・教員が余計に2、3週間かけてでも他の図書館の図書を 利用するケースが増えたからです。 毎年の削減は僅かでも、それが年々累積した結果、現在では 多くの図書館とその利用者に大きな影響が及んでいます。 ある図書館の事例は上記の影響を具体的に物語っています。 1996年、この図書館は購読予算376万ドルを計上していました。実のところ、本当に 必要な予算は1986年に購読していたタイトル数を確保できる553万ドルでした。 10年の間にこの図書館の資金力は33%も縮小したのです! 詳細はこちら。 また、図書館の役割は現在の蔵書を維持するだけでは果たされません。 しかも、この図書館の購買力は弱くなっているのに、世界中で発行される学者・教員の著作は 増え続けていたのです。著作物のタイトル数が果てしなく増え続けるなかでこの図書館が 1996年に1986年当時のレベルを維持するためには推計で940万ドル、実に1986年の2.5倍の 予算が必要だったのです! Library Journalによれば、1999〜2000年の学術誌平均購読価格は 年率10%で上昇し、10年間で170%も上がりました。27の学問分野のうち17分野において 購読価格が二桁台のパーセンテージで上昇しましたが、工学分野における価格上昇が 最高で年率12.7%だったのに加え、以下の社会科学分野でもトップクラスの値上がりを見ました。
今のところはまだ非営利出版社の支配する芸術・人文科学分野の出版物だけが
年率10%未満の値上がりに留まっています。1999年と2000年の購読価格比較表を見る方は
ここをクリックしてください。 このような異常な値上がりは大規模な研究図書館の購入する資料だけに留まりません。 Library Journalによれば、中規模の大学図書館やカレッジ図書館も天文学、生物学、化学、 工学や保健科学などのSTM分野と、人類学、商学・経済学、地理学、政治学、心理学や社会学 などの社会科学分野を含む主要分野において過去5年間に二桁台の値上がりに見舞われました。 具体例 ある図書館と学者・教員の体験は、危機が現実にそこにあることを 雄弁に物語っています。まず、価格高騰に取り組んできたある米国の研究図書館の 事例を紹介します。 図書館”A”は州立大学系総合大学の研究図書館です。 これは代表的な事例です。
オーストラリア発の最近のレポートから2番目の事例を紹介しますが、 この事例は海外の学術コミュニケーションが北米のそれよりもなお深刻であることを 示しています。 1993年、オーストラリアの38の大学図書館は合わせて200,666タイトル
の学術誌を購読していました。1998年には112,974タイトルと43.7%減少しました。
この5年間に学術誌の平均単価は287オーストラリアドルから485オーストラリアドルへと
70%も急騰しました。 オーストラリア学術コミュニケーション改革連合の議長と、 アデレード大学人文・社会科学部学部長を兼任するMalcolm Gillies氏は、 科学・技術・医学の分野における学術誌のキャンセルは約60%であると推計しました。 さらにGillies氏は世界の研究界のなかでもオーストラリアは、学者・教員が利用できる 学術資源が特に減少しているため、深刻な危機にあると指摘しました。 カナダドルは1990年代を通じて米ドルに対して弱かったので、 カナダの一部学術分野においても状況は深刻です。それを示す事例はたくさんあります。 オタワ大学はこの数年間に学術誌3,000タイトルの購読をキャンセルしました。 アルバータ大学はこの10年間に6,355タイトルをキャンセルしました。1999年だけでも、 アルバータ大学は1,644タイトルのキャンセルを余儀なくされました。 ラバル大学は1998〜1999年の期間に100万カナダドルを超える学術誌をキャンセルしました。 同期間に、報告のあったカナダの研究図書館24館は平均で181,000カナダドル、 総額で434万カナダドルに相当する購読をキャンセルしました。 北米以外でこのようなデータを収集している国はあまり多くは ありませんが、諸国から受ける印象によれば、危機は世界中に広がっているようです。 この状況からどう抜け出すか? 学術コミュニケーションにおける危機は実のところ30年から40年前から 進行してきました。 1960年代頃まで学術コミュニケーションは、学者・教員、学会、および 図書館が主役の学問の伝統文化の一部分でした。 学術コミュニケーションをめぐるシステムは扱いやすく、バランスが 取れていて、そのなかで学者・教員は論文を執筆し、学会は質を追求した編集・出版活動を 介して論文に付加価値を与え、図書館は出版物の普及にベストを尽くしました。 1960年代と1970年代に学術コミュニケーションは大きな進歩を遂げました。
商業出版者がこのシステムに参入しました。
しかし、1970年代の半ばには、皆の利益になると考えられていた 学術コミュニケーション・システムが実は砂上の楼閣かもしれないという、 かねてから広がりを見せていた不安の影がその姿をあらわしました。また、1980年代の 半ばまでに、学術誌のキャンセルとその他の図書の削減は多くの図書館の年中行事になりました。 いよいよ悪循環が始まりました。購読のキャンセルが価格の高騰を引き起こし、 価格の高騰は図書館に新たなキャンセルを余儀なくしたのです。 この抑圧状態のなかで、学術出版システムの立役者の間で価値観の相違が生じ、 それが浮き彫りになり、現在ではそれがより顕著になっています。
現在のシステムは非常に高価につく皮肉を生み出してしまいました。
学術出版は将来どうなるか? 学術コミュニケーション・システムを維持できるかどうかは、 高等教育機関からの支援や学術出版物の値上がりのような要因の微妙なバランスで決まります。 この数年間、図書館は、支援を受けても、また多くの対策を講じても、主に学術誌の 異常な値上がりについていけずに後退しています。 この先どうなるのでしょうか? 1986年からの13年間に生じた 出来事と今後13年間の単純予測2例を一読しただけでも酔いも覚めるような答えに 行き当たります。 1986年以来の出来事を振り返ると、
2012年までの予測:シナリオI:支援が現在の水準で推移するケース シナリオIでは、平均的な研究図書館の購読する学術誌の価格が 年率9.0%で上昇し、図書館の学術誌購読予算が年率7.9%で増加するケースを想定します。 予算の不足に対処する手段は学術誌のキャンセルだけと想定します。学術誌購読タイトル数の 基準年は1986年とします。 すると、2012年には以下のようになります。
2012年までの予測:シナリオII:支援が緩やかに削減されるケース シナリオIでは、教育機関の支援が現在の水準で推移するケースを想定しました。 しかし、経済の全般的な不確実性を考慮に入れると、7.9%よりも低い予算増加率を想定した シナリオの方がむしろ現実的であると思われます。したがって、シナリオIIでは、 教育機関の支援が年率5%の増加率に落ち込むものと想定します。このシナリオでも 予算の不足に対処する手段は学術誌のキャンセルだけとし、1986年を基準年とします。 すると、2012年には以下のようになります。
上記の予測はサイエンスフィクションではありません。両シナリオともに 現実になる可能性があり、特に向こう12年間に研究論文の出版が2倍になる見込みで あることを踏まえると、学者・教員にとってはいずれも耐えがたいシナリオです。 皆さんの図書館の学術誌が収納された書棚を思い浮かべてみてください。 書棚から1/4の学術誌が、場合によっては半分ほどの学術誌が消えるのです。 学術誌が消えたらどうしますか? 学術誌が新規に購読されなくなったらどうしますか? 利用できなくなったらどうしますか? 新たな場所から研究情報を仕入れるのですか? 最先端の方法で情報を仕入れるのですか? 次々と現れる情報ソースから仕入れるのですか? たぶんこれらのすべてが必要になるでしょう。このように、この問題は学問に大きな打撃を 与える恐れがあるのです。
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