I. 提唱活動(Advocacy)とは何か
提唱活動(Advocacy) とは組織的な影響力を意味します。これは、
計画的かつ組織的な方法で人の態度に影響を与えようとするものです。そしてその最終的な目的は、
行動するための動機づけをおこなうことです。
提唱活動は、自分のスタイル、問題となっている事柄、対象となる人たちに応じて、
さまざまな方法でおこなうことができます。このキットでは、提唱活動のための主な戦略として、
情報と共同作業が強調されています。こうした戦略をとおして:
- 自分の取組んでいる問題や自分の目標の重要性を確認し、
- 自分が影響を与えようとする人たちが、自分と同じ目標を持っていること、
そして、協力して目標を達成することがその人たちの利益にもつながることを確認してください。
提唱活動に関する詳しい情報をご希望の方は、SPARCの依頼でCavill Consulting社が
作成したアドボカシ・ハンドブックをお求めください。
このハンドブックはsparc@arl.org でお申し込みください。
II. アドボカシ・プログラムを
打ち出すためのステップ
このキットは、アドボカシ・プログラムを打ち出すうえでの基本的なステップを
記した5つのセクションからなっています。
- 自分の目的を定める。 あなたはアドボカシ・プログラムによって
何を達成しようとしていますか。価格の上昇率を抑えることですか。学術コミュニケーションに
代わるシステムの開発ですか。電子出版への速やかな移行ですか。競争を促すことですか。
学術出版に関連した昇進制度や終身雇用制度を改革することですか。
- 対象となる人たちを誰にするか決める。 あなたが影響を与えたいと
願う対象は誰ですか。それは教員ですか、管理者ですか、大学院生ですか、図書館の
スタッフですか、それとも立法関係者ですか。特定のグループに焦点を絞りますか。
対象となる人たちによって、あなたのアドボカシ・プログラムはどのようなものにな
りますか。
- プログラム計画を立てる。 目的と対象となる人たちが決まったら、
次はどのような戦略を採用するかについて考えましょう。あなたは、対象となる人たちに
どのようにして問題点を伝えますか。
- 具体的な行動を計画・実行する。プログラムの実行責任者は誰にしますか。
具体的なタスクや期限はどのようなものですか。
- 見直しをおこなう。 プログラムの実行にあたっては、評価に十分な
時間を割いてください。うまく進んでいるものとそうでないものを確認してください。
省くべきこと、加えるべきこと、変更すべきことはありませんか。
III. ステップバイステップ:
自分の目的を定める
CREATE CHANGE
プログラムの主な目標は次のとおりです。
学術研究のデータを、世界中の学者・教員、学生、およびその価値を
引出そうとするすべての人が利用できるようにする。
この総合的な目標はいくつかの目的からなっていますが、これらは最終的な
目標を達成するための手段でもあります。これには以下のようなものがあります。
- 学術出版の主導権を、商業出版者からその本来の所有者である学者・教員たちの
手に取り戻す。
- 学術情報をできる限り広めるため、そして図書館や学者・教員たちにとって無
理のない価格設定方針を採用させるために、出版者に対して影響力を行使する。
- 商業学術出版に代わるシステムを開発する。これには、手軽に利用できる
電子的なフォーマットによる学術誌や、学者・教員たちが学術研究データを直接利用
できるようにするプログラムが含まれる。
- 学術研究データの利用可能性を推進するために、教員同)のピアレビュー・システムを
改革する。この改革には、昇進や終身雇用の基準として量より質を重視することや、
研究内容を伝えるための手段として電子出版を認めることなども含まれる。
実践的なレベルのアドボカシ・プログラムには、以下のようなものがあります。
- 学者・教員、管理者、および学術コミュニケーションをおこなう企業の関係者に、
学術コミュニケーション・システムの問題点を十分認識させる。
- 図書館の意志定に関わる人たちの理解を深め、アドボカシ活動への支援を
呼びかける(たとえば学術誌の解約)。
- 関係者の間での議論を促す。
- 行動するための動機を関係者に与える。これには、納得できない価格を
設定している学術誌の編集や審査の拒否および投稿の拒否に関する手紙を、出版者に
送ることなどがある。
上記の各項は、情報を提供すること〜理解を深めること〜動機づけをおこなう
ことという順に並んでいることにお気づきになったことでしょう。
ここで重要なのは、こうした目的について十分な協議をおこない、対象となる人たち
および図書館の管理者やスタッフに合った目標を定め、それをもとに適切な成果を上げることです。
たとえば、情報を提供して「理解を深める」レベルを選ぶ図書館もあるでしょう。また、
上記のすべてに取り組み、アドボカシ・プログラムの効果を判定するために教員が
どのような行動を起こすかを見守る図書館もあるでしょう。
IV. ステップバイステップ:
対象となる人たちを誰にするか決める
アドボカシとはその本質からして修辞的であるため、アドボカシ・プログラムを
計画するときは、対象となる人たちをよく理解する必要があります。これを十分理解したうえで、
どのような戦略やメッセージが適切または不適切であるかを考えてください。
ここで念頭に置くべきことは、学者・教員も人間であり、人間的な反応を示すということです。
学者・教員はまた、頭の固い大学人でもあります。アドボカシ・プログラムを成功させた
図書館長たちは、対象となる人たちの考え方をよく理解することが重要だとしています。
- 教員、特に理科系の学科に重点を置いている人たちのなかには、
データにしか興味を示さない人がいます。
- 逆に、より哲学的なレベルでの議論を好む人たちもいます。
- 大学のなかには、教員がどのような種類の会議にも出席しないところもあります。
このような場合は、シンポジウムや会議を計画しても無駄です。
- また、管理というものに対して警戒心を抱いている大学もあり、
こうした大学では「管理的なメッセージ」は歓迎されません。
- 教員のなかには、自分が不遇だと感じている人たちもいます。
たとえば、理科系の学科が重視されている大学の人文学者などがそうです。
- 大学のなかには新しい試みを重視しているところもあります。
こうした大学の教員には何でもやってみようという意気込みがあります。
逆に、新しいアプローチに対して消極的な大学もあります。
- 関係者(たとえば学術誌編集委員会のベテラン編集委員)のなかには、
世慣れた考え方をする人たちもいます。
「学術コミュニケーション」の捉え方を理解することが重要です。たとえば:
- 学者・教員のなかには、ずっと以前から出版者との間で良い関係を築いて
きている人もたくさんいます。出版者だけを悪者扱いしたり、出版者はすべて同じだと
見なしたりするのは、軽率かつ不公平なことです。
- 「学術コミュニケーション」という言葉が何を意味するのかは、
学者・教員によって異なります。さまざまな分野の学者・教員と話してみれば、
これがよくわかります。ですから、フランス史学者に接するときと微生物学者に
接するときとでは、アプローチの方法は自ずと違ってきます。
大学の管理者も独自の考え方をすることがあります。このなかには、
学者・教員から管理者になった人もいれば、当初から管理者として育った人もいますが、
ほとんどは管理部門以外の人たちとは異なった考え方をしています。こうした人たちは、
重要なポイントだけに焦点を絞ることが多いようです。「コストはどれ位か」、「
その学術誌は実際に利用されているか」などです。また、学校の方針や広報活動を
重視することもよくあります。「この問題について特定の姿勢を取ることは、大学にとって
何を意味するのだろうか」。
したがって、アドボカシ・プログラムの計画では、対象となる人たちを決めることが
重要になります。一部の図書館では、管理者や編集委員を務めている年長教員など、
もっとも影響力の大きい関係者に対象を絞っています。また、いずれ学会のメンバーとなる
大学院生を含めた広い層を対象としている図書館もあります。
V. ステップバイステップ:
プログラム計画を立てる
目的を定め、対象となる人たちが決まったら、全体的な計画を立てます。
この計画には次のような要素を盛り込んでください。
1. プログラムのコーディネーターを決める。 通常は、
すでにCREATE
CHANGE プログラム関連の責任を
引き受けたことのある人がコーディネーターを務めます。図書館のなかには、
学術コミュニケーションについての責任者を、正式に任命しているところもあります。
あるいは、定期刊行物の解約など蔵書関連問題について外部の関係者と交渉をおこなう
蔵書担当者を、コーディネーターにすることもできます。もちろん図書館長が
コーディネーターを引き受けることもできますが、別の人間をコーディネーターに指名し、
館長は管理的な立場から定期的にプログラムに関与するほうが一般的です。
コーディネーターとなった人は、プログラムの総合的な監督、必要と思われる訓練、
プログラムの評価、コミュニケーション、およびCREATE CHANGE のスポンサー(ARL、ACRL、SPARC)と
の連絡業務などについて責任を負います。
2. 主な戦略を決める。 詳細な行動計画を立てる前に、
主な戦略を決めてください。これにはたとえば以下のような例があります。
戦略は自分に合わせてカスタマアイズしてください。また、戦略を一部省いたり、
新たなものを加えたりする必要が出てくることもあります。以下はその一例に過ぎず、
必ず採用しなければならないものではないことに留意してください。
- 教員や管理者とは何よりもまず1対1でおこなう。一部の図書館では、
グループ活動よりこの方が効果的であるとしています。
- 関係者のうち重要だと思われる人たちに焦点をあてる。一部の図書館では、
学術誌の編集委員でもある学者・教員に焦点をあてています。また、学術誌のコストが
もっとも高くなっている分野(STM分野)の教員に焦点を絞っている図書館もあります。
- 教員との協力は、学科レベルまたは学校レベルでおこなう。一部の図書館では、
学科会議でプレゼンテーションをおこなえば、時間を効率的に使えるだけでなく
教員同士の横のつながりもできるとしています。
- 学部の図書委員会や学科長会議など、さまざまな学科の教員から構成される
特定グループに焦点をあてる。こうしたグループは学内での議論を始めるうえで効果的です。
また、CREATE
CHANGE のようなキャンペーンの共同スポンサーになってもらうことも
できます。
- 図書館で「小グループの説明会」を開く。これまでにこうした説明会を
成功させた経験があれば、ぜひやってみるべきです。
- できれば外部の講演者を招き、大規模なシンポジウムを開催(または共同開催)する。
一部の図書館では、ほかの大学と共同でこうしたイベントを開くことがさらなる協議への
足がかりになるとしています。
VI. ステップバイステップ:
具体的な行動を計画・実行する
- 内部アドボカシ。一般に、アドボカシというと、自分の組織外の人たちに
影響を与えようとすることだと思いがちです。しかし、アドボカシ・プログラムで重要なことは、
自分の組織内の主だった人たちがそのプログラムを理解し、その目標の達成に
貢献しようとすること、そして、それに必要な情報を得ることです。推奨される行動には
次のようなものがあります。
- 外部アドボカシ。 外部の人たちやグループに影響を与えるための行動には、
次のようなものがあります。
- 主だった教員や管理者にCREATE CHANGE のパンフレットを
配布する。これは、図書館長と人望の厚い管理者が共同で署名したレターを添えて
配付するのがよいでしょう。サンプル1
サンプル2
- 自分が影響を与えたいと思う人たちが視聴する可能性のあるメディアに、プレスリリースを配付する。
- CREATE CHANGE
のキャンペーンに注目を集めるため、大学新聞に広告を掲載する。
- 教員と個別に面談してCREATE CHANGEプログラム
について説明するよう、主だったスタッフに要請する。選書担当者や主題担当図書館員に
1対1での面談をおこなわせる。面談サンプル。
- 教員グループと面談してCREATE CHANGEプログラム
についての情報を提供するよう、主だったスタッフに要請する。
このグループ・プレゼンテーションは、少数のボランティアに担当させる。これは、
専任のスタッフ(たとえば、学術コミュニケーションのコーディネーター)が選書担当者と
ともにプレゼンテーションをおこなうほうが効果的だからです。事例.
- 大学内で学術誌の編集委員と会議を開き、編集委員に合わせた
プレゼンテーションをおこなう。この場合は、教員向けのプレゼンテーション内容に
手を加える必要があります。事例。
- 教員が、方針や行動の変更を求めるために出版者や学協会に送る手紙の
サンプルを作成する。テンプレート1、
テンプレート2、
テンプレート3、
テンプレート4。
- CREATE CHANGEに関連した
特別イベント を企画する。
VII. ステップバイステップ:
見直しをおこなう
数ヶ月間プログラムを実施したら評価をおこない、プログラムの目標、対象となる人たち、
プログラムの計画、行動などを見直してください。どこかに欠点はありませんか。
プログラムや行動のなかで省くべきこと、加えることはありませんか。アプローチを変える
必要はありませんか。
アドボカシ・プログラムは実践的な試みです。うまくいっている部分はそのまま残し、
そうでない部分は省くようにしてください。また、アドボカシが軌道にのるまでには
時間がかかることも忘れてはなりません。予想される成果が思ったほど早く上がらなくても、
それは必ずしも戦略に誤りがあるからとは限りません。
この見直しはグループでおこなうようにしてください。CREATE
CHANGE チームまたは諮問グループがある場合は、そうしたグループを
評価プロセスにも関与させるようにしてください。
VIII. 教員との協力のもとに、
うまくいっていることとそうでないことを特定する
1999年、研究図書館協会では、学術コミュニケーションの問題について
大学の学者・教員を啓発することについて、約20名の図書館の管理者にインタビューを
おこないました。学者・教員を啓発して改革を提唱するための積極的なプログラムは、
すべての図書館にありました。インタビューの結果は、「図書館を変える(Transforming Libraries)」の
第10号および「システムと手順を変えるためのキット」(SPEC:Systems and Procedures Exchange)の第250号に発表
されています。インタビューを受けた人たちには、自分の経験ではどのようなことが
うまくいき、どのようなことがうまくいかなかったかを尋ねました。回答の要約は
以下のとおりです。
うまくいったこと。 回答者の見解には多少の開きがありましたが、
多くの人たちは次のようなアプローチがうまくいくと答えていました。
- 規模は小さく抑える。図書館の多くは、セミナーなど規模の大きい正式な
セッションは教員の多くが時間的な制約のために出席できないことから、
1対1の協力のほうがうまくいくとしていました。一方、大規模なイベントは、
たとえ教員が出席しなくても、人々の注目を集めるうえでは効果があるとする図書館も
ありました。
- 外部の権威や専門家を活用する。教員のなかには、「高等教育クロニクル紙」に
載らない限り、あるいは高名な学者・教員や高等教育の管理者が支持しない限り、
耳を傾けようとしない人がいます。 (詳細はこちら)
- 妥当性があってわかりやすいものにする。学術コミュニケーションに関する
図書館のメッセージは、学者・教員たちが実際に懸念している事柄に関係のあるものであり、
かつその関係がわかりやすいものでなければなりません。ですから、図書館で用いる
専門用語や法律的な専門用語は使わないようにしてください。
- 学問分野間の違いを認識する。学問と学術コミュニケーションが何を意味するかは、
分野によって異なります。教員から質問があったときは、この違いを認識するようにして
ください。
- 情報源・特定の専門的知識を提供する。教員は、頼りにできる情報源が
図書館にあることを知ると安心します。この情報源には、学術誌の価格設定に関する経緯、
特定の出版社の追跡記録、知的所有権関連の実践的な問題に対する支援などがあります。
- オープンな姿勢を保つ/教員に意見を求める。効果的アドボカシとは、
必ずしも予め決められたひとつの目標へ向かって直線的に進むものではありません。
教員のなかには、問題に取組むうえで独自のアプローチを採用する人もいます。
したがって、アドボカシでは人の意見によく耳を傾けながら、必要に応じてやり方を
変えていかなければならないこともあります。
- 粘り強く取組む。アドボカシは研究開発のように思えることがあります。
ただちに結果を求める人には耐えがたいかもしれません。また、効果的なアドボカシを
おこなっても、対象となった教員が「もう少し考えてみる」としか答えてくれないことも
あるでしょう。
- データを使う。現在の教員は、主観的な議論にはあまり影響されません。
「図書館は大学の魂である」、「管理者は資源を求める競争の激化を十分認識している」などと
いった議論がこれにあてはまります。教員と管理者はデータを欲しがり、それを自分なりに
解釈したいと考えます。特に効果的なデータには、出版者の利益に関するデータ、および、
データに基づいて費用対効果を測定したコーネル・プロジェクトやウィスコンシン・プロジェクトの
調査結果などがあります。
- 効果的な代替システムに焦点をあてる。特定の状況下で効果があるのは、
電子的な方法によるアクセスやドキュメント・デリバリーなど、印刷された書籍に
代わる方法に焦点をあてることです。一部の図書館では、教員や大学院生に無償で
ドキュメント・デリバリーを提供していますが、これは協力を求める効果的な戦略に
なるとしています。
うまくいかなかったこと。 (驚くべきことに
全員が一致していた。)
- 資金不足であると不満を述べる。教員と管理者のほとんどは、図書館の経済的な
困窮には関心を示しません。自分でも心配すべき経済的な問題を抱えているからです。また、
インフレや為替レートなど一般的な経済データにもあまり関心を示しません。
- 感情的になる。この問題に携わる教員は、客観性のあるまじめな議論を
望んでいます。
- 「質か量か」というテーマを取り上げる。図書館員や管理者のなかには、
学術コミュニケーションの問題に取り組むひとつの方法として、昇進や終身雇用の審査で
量より質を重視することを挙げる人もいますが、教員は今でも量が重要であると考えています。
原則的には同意するかも知れませんが、量の持つ価値を無視すれば、自分や学生のキャリアも
影響を受けるのではないかと恐れているのも確かです。
- 書かれた資料だけを用いる。書かれた資料は、それが優れた内容のもので
あってもアドボカシ・プログラムの一部に過ぎません。これを効果的に利用するには、
背景や枠組みを説明する資料として用いるとよいでしょう。
- 講釈をする。学術コミュニケーションについて教員に講釈しても、
あまり効果はありません。それよりも、主なデータや質問を提示してから一旦引き下がり、
教員同士で話し合いをさせるほうが効果的でしょう。
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